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大阪高等裁判所 平成4年(ラ)541号 決定 1992年12月21日

抗告人(債務者)

水島政勝

上記代理人弁護士

井上直行

相手方(債権者)

株式会社大興殖産

右記代表者代表取締役

大西龍治

第三債務者

松下酒類卸株式会社

上記代表者代表取締役

松下義治

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  債権者の申立てにより、原決定添付の請求債権目録記載の債権の弁済に充てるため、同目録記載の執行力のある債務名義の正本に基づき、抗告人(債務者)が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。

3  抗告人は、前項により差押えられた債権について取立てその他の処分をしてはならない。

4  第三債務者は、第二項により差し押さえられた債権について抗告人に対し弁済をしてはならない。

理由

1本件抗告の趣旨は「原決定につき、差押債権の範囲を毎月支払額の四分の一に変更する旨の裁判を求める。」というにあり、その理由は別紙抗告の理由及び執行抗告申立補充書記載のとおりである。

2当裁判所の判断

一件記録によれば、債権者株式会社大興殖産は平成元年七月三一日木之下善喜に対し、九〇万円を弁済期日平成三年七月末日、利息年一八パーセント、遅延損害金年三六パーセントの約定で貸付け、抗告人ほか三名が連帯保証したこと、木之下は平成元年九月三〇日に支払うべき分割金の支払を遅滞したので、約定に基づき同日の経過をもって期限の利益を失ない、平成四年一一月一一日の時点で貸付元残金七八万三三一一円、平成二年九月二一日から平成四月一一月一一日まで年三六パーセントの割合による損害金六〇万四〇四七円の債務があったこと、そこで債権者は平成四月一一月一二日神戸地方法務局所属公証人岡村亘作成平成元年第〇八八一号金銭消費貸借契約の執行力ある正本に基づき、その連帯保証人である抗告人に対し、上記債権の弁済を受けるため抗告人の第三債務者に対して有する原決定添付の別紙差押債権目録記載の債権の差押を申立て、同月一六日上記差押債権目録記載にかかる毎月発生する継続的債権の全額に対する差押命令を得たこと、以上の事実が認められる。

これに対し、抗告人は、抗告人が第三債務者に対して有する債権の実質は雇用契約に基づく賃金であるからその四分の一しか差押えることができないから原決定は民事執行法一五二条一項二号に反する旨主張する。そこで検討するに、一件記録、特に当審で提出された<書証番号略>(貨物自動車雇用契約書、平成三年度運賃支払明細)並びに審理の全趣旨によれば、抗告人と第三債務者間の契約は形式的には「酒類等の商品配送請負契約」とされているが、抗告人はいわゆる持込みトラック運転手であって、昭和四八年以降昭和五四年まで第三債務者の大阪支店に、次いで昭和五五年から今日に至るまで同西宮支店に継続的に勤務していること、勤務時間は午前八時半から午後五時半まで、休憩昼一時間、残業一〇分につき三七〇円、勤務の対価は一日二万一〇〇〇円、毎月二〇日締めの二五日払い、休日は土、日、祝祭日であり、抗告人の無断欠勤の場合に関する取決めもあること、勤務形態は専属的で他社の仕事は一切しないこと(運送業の免許も持っていない。)、第三債務者は抗告人に対する指揮監督権を有し、小売店への配送はすべて第三債務者の指揮に従ってされていること、平成三年一月から一二月までの月平均支払額は四〇万円前後であることがそれぞれ認められる。

以上の事実によれば、抗告人と第三債務者との間の関係は実質的には労働契約であり、抗告人が毎月受け取る支給金は賃金であると認めるのが相当である。してみると、本件差押債権は民事執行法一五二条一項・民事執行施行令二条一項の適用を受けるところ、公租公課の額を認めるに足る資料がなく毎月受けるべき賃金の手取額が二八万円を超えるとは認められないので、本件においては一律に月払分の四分の三につき差押を禁止するのが相当である。

よって、これと異なる原決定を右の限度に従って変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官吉田秀文 裁判官弘重一明 裁判官鏑木重明)

別紙差押債権目録

金 一、三九四、一二六円

但し、債務者が第三債務者との間における貨物自動車雇傭契約に基づき、毎月二〇日締切、当月二五日支払の約定により、債務者が第三債務者より引続き支払を受けるべき金員の四分の一宛、頭書金額に満つるまで。

別紙抗告の理由

1 原審が抗告人(債務者)が第三債務者から受ける金員を「請負代金債権」として、全額につき差押を認容したのは、民事執行法第一五二条一項二号に反し、違法である。

よって、原決定は違法である。

2 抗告人(債務者)と第三債務者の契約は、法形式上「商品配送請負契約」されているが、実質は「労働契約」であり、受け取る金員は「賃金」である。

即ち、抗告人(債務者)は、いわゆる「持ち込みトラック運転手」であるところ、昭和四八年、第三債務者大阪支店に勤務して以来、今日まで継続して勤務している。昭和五五年には第三債務者の命により西宮支店に転勤している。

西宮支店での酒類運送は、持ち込みトラック運転手3名で行っているが、いずれも白ナンバーであり、営業ナンバーを取ってはいない。即ち、請負させることはできない。

休日は、土曜日、日曜日、祝祭日であり、賃金は一日二一〇〇〇円で、毎月二〇日しめの二五日払いである。勤務時間は、八時三〇分〜一七時三〇分であり、残業をしたときは、残業一〇分につき、三七〇円が支払われる。即ち、実質時間賃金である。

専属で、他社の業務は一切せず、小売店への配送はすべて、日々の第三債務者の指揮により行っている。

従って、抗告人(債務者)と第三債務者との関係は労働契約であり、受け取っている金員は賃金である。民事執行法一五二条の適用をうける金員である。

月払分の四分の三については差し押さえてはならないというべきであり、原決定は変更されるべきである。

現に抗告人(債務者)は原決定により、生活の基準となる唯一の収入を差し押さえられ、生活困窮に陥っている。

別紙執行抗告申立補充書

抗告人(債務者)と第三債務者間の法律関係は雇傭関係である。

<書証番号略>貨物自動車雇傭契約書は、雇傭を認めたものである。

即ち、使用者の指揮監督を認めている(一条)。勤務時間を定めている。(三条)。欠勤を定めている(六条)。これらの労務提供に対し、時間賃金を払う(傭車料金表)。

第三債務者は、事故負担と各種社会保険の負担を潜脱するために、名目上「自動車運賃」としているだけである。

<書証番号略>の明細は「運賃」とされているが、すべて時間賃金によるものであり、毎月の月額が、平均しているのはそのためである。実質上賃金である。

抗告人は、原決定により唯一の収入を奪われ、生活困窮に陥っている。

早急に原決定の変更、執行停止をされたい。

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